人々の中には、相手の取る行動を推論しようとする人としない人がいる。推論する人としない人とでは、複数の主体の意思決定がそれぞれの結果に相互に影響を与えるゲームにおいて、選択に大きな差が生じると考えられる。そしてその影響は、相手の取る行動を推論できる人がよりゲーム理論が仮定するフレイヤーに近いので理論予測に近い行動を取る、というほど単純なものではないと予想される。本研究の目的は、相手の取る行動を推論するかどうか(戦略的推論能力)が、ゲーム的状況、中でも協力的状況と競争的状況における人々の行動にどのような影響を与えるのかを、実験を用いて明らかにすることにある。本年度は主に、協力的状況の中でも、社会的ジレンマの構造を持つゲームにおける戦略的推論能力と協力行動に関する実験を行った。この実験では、選択を順番に行う逐次手番の囚人のジレンマと戦略的推論能力を測定するための処理の2つの処理を用いた実験を実施した。逐次手番の囚人のジレンマでは、被験者の行動パターンが把握できるように、戦略選択法を用いた。実験の結果、戦略的推論能力の高い被験者の方がそうでない被験者よりも、逐次手番の囚人のジレンマにおいて協力的であった。しかしこの実験では、先手のときには協力し後手で先手が協力したときには非協力を選択するという、これまでの先行研究で観察されてきた協力行動とは異なる行動が多数観察されたため、これらの行動の原因を特定すると同時に、実験計画の修正と追実験を行う必要がある。またこの実験で用いた戦略的推論能力を測定する処理に関しては、その妥当性を検証した研究を、国際会議やシンポジウムなどで発表した。
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