これまでの研究で、線維芽細胞から分泌される血管新生因子VEGFは不活性化された状態で産生されることを明らかにしてきた。このVEGFは正常組織では不活性化されたままであるが、がん組織内ではがん細胞の産生するプロテアーゼMMP-7の作用により再活性化されることを明らかにしてきた。この機構が、正常組織ではVEGFの発現が見られるにも関わらず血管新生が起こらず、がん組織のみで起こる現象に寄与していると考え、研究を続けてきた。 VEGFが血管新生するにあたり、血管内皮細胞上のVEGF受容体に結合する必要がある。しかし血管内皮細胞はVEGFに結合しその機能を阻害するsoluble VEGF Receptor-1(sVEGFR-1)を大量に産生している。よって仮に線維芽細胞由来のVEGFがMMP-7により活性化されたとしても、血管内皮細胞周囲でsVEGFR-1の作用によりVEGFは再び不活性化されると考えられる。しかしこれまでの実験結果からがん環境下では線維芽細胞由来のVEGFは血管新生を亢進できることが分かっていた。本年度はこの間を埋める機構に取り組んだ。結果として、血管内皮細胞より分泌されたsVEGFR-1はMMP-7により分解されることが分かった。そしてsVEGFR-1が分解されることで、sVEGFR-1に活性が抑えられていたVEGFが再び血管新生を亢進できるようになることがわかった。 今回の成果は、VEGFの翻訳後修飾に関わる分子機構の報告がこれまで非常に限られていることを加味すると、今後のVEGFの実際の生態における血管新生制御の機構を解明する上で重要な知見となる可能性を秘めている。
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