まず、インターネット調査における自由回答・新聞報道・電子化された国会答弁という3種類のテキストデータを用いて計量的な分析を行い、2007年参院選の争点において、一般有権者・マスメディア・政治家の3者が、それぞれ政治を捉える上での視点の違いを検討した。3者とも参院選の争点として「年金」に対する言及がもっとも多かったものの、「年金」という語と共起する単語には大きな違いが見られた。「日本年金機構」「国民・厚生年金」「番号」「時効」「五千万件」といった語が「年金」という語と共起し、年金制度や問題の詳細について議論する政治家、主要政党や「逆風」「訴える」といった語が共起し、政党や候補者同士の主張のぶつけ合いに注目するメディア、「支払う」「お金」「増税」「公務員」「天下り」といった語が共起し、年金制度そのものではなく、自らの負担に見合う政治行政がなされているかという観点から「年金」争点を捉える一般有権者といった違いが明らかになった。 選挙研究が変化の激しい現実の選挙状況に対応することと、実証データを用いて説得力のある分析を行うことを両立することは、大変難しい課題である。本研究は、テキストデータの多様な分析や、テキストデータと選択式回答を組み合わせた分析を用いることで、それに対する解決策として、ひとつの形を提示することができたと考えられる。 また、インターネットリサーチ会社の調査パネルに登録されている20〜69歳の男女24名に対して、一人一時間程度の深層面接を行った。幅広い年代、職業にある対象者が、政治や政策をどのように捉えているか、どのように政治と関わっているかを深層面接によって詳細に検討した研究は類例がなく、一般有権者が政治を捉える枠組みを明らかにする上で、有用な知見がもたらされることが期待できる。
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