研究概要 |
「研究の目的」 幻聴は,統合失調症患者自身の発話内容,もしくは内言であることが示唆されている(McGuigan,1966)。つまり,統合失調症患者は,「自分が発話している」という感覚に異常があるため,自分の発話を他者の発話であると判断すると考えられている。また,統合失調症患者だけでなく,健常者にも,幻聴経験があることが報告されている。申請者の目的は,健常者を用いて,ソースモニタリング(ある出来事が現実であるか想像したことなのかを判断するプロセスのこと)の観点から,幻聴の生起,抑制メカニズムを明らかにするための研究を行うことであった、つまり,「自分が発話したか想像しただけか」という記憶判断を用いて,自分が発話しているという感覚が得られる要因について検討した。 「具体的内容」 尺度的作成 健常者の幻聴傾向を測定する質問紙AHESを作成し,信頼性妥当性を検討した。この結果は「心理学研究」に掲載された。 実験 PCのモニタ上に単語を呈示し,その後,「発話」「口真似」「想像」のうちのいずれかの教示を呈示した。参加者は教示に従って,「発話」「口真似」「想像」を行った。また,「発話」した場合,時々,その声がオンラインで音程変換されてフィードバックする条件も設置した。複数の単語について,「発話」「口真似」「想像」のいずれかで学習した後,各単語について「発話したか否か」の記憶実験を行った。その結果,「想像」<「口真似」<「発話」の順に「発話した」と判断する傾向が高くなり,さらに発話した場合,音程変換された単語より,変換されていない単語のほうが「発話した」と判断する傾向が高くなった。つまり,自分の発話に関するフィードバックが多ければ多いほど,それが自分の予測したものと等しければ等しいほど「発話自己主体感」は得られやすいことが示唆された。 個人差研究 実験で得られた結果を,幻聴測定尺度AHESを用いて分析した結果,幻聴傾向が高い人は,より「自分が発話したかどうか」の判断が不正確になることが明らかになった。この結果はQuartery Journal of Experimental Psychologyに投稿,再審査中である。
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