新規ABCトランスポーターABCG4は、コレステロール等の脂質の輸送に関与すると考えられており、申請者の過去の研究から、マウスAbcg4タンパク質が脳に発現していることが明らかとなった。本研究では、ABCG4が脳内の脂質の恒常性の維持を担い、神経変性疾患の発症予防に寄与するという仮説を立て、ABCG4の生理的・病理的機能を解明することを目的とする。研究進展状況の変化及び受入研究者の変更に伴い、研究計画を変更し、本年度は「ビオプテリン(BP)代謝と神経変性疾患との関係に関する生化学的解析」を行った。 テトラヒドロピオプテリン(BH4)はGTPから生合成され、神経伝達物質(ドーパミンやセロトニン)の生合成の律速酵素(チロシン水酸化酵素、トリプトファン水酸化酵素、フェニルアラニン水酸化酵素)の補酵索である。BH4の代謝変化が神経変性疾患の発症や症状に与える影響を明らかにするために、高速液体クロマトグラフィーを用いて、BH4の生合成及び分解過程で生じるBP代謝産物を測定した。神経変性疾患(パーキンソン病、前頭側頭型認知症、多系統萎縮症)の患者の脳脊髄液中では、7種類のBP代謝産物(ネオプテリン、ジヒドロネオプテリン、キサントプテリン、プテリン、BP、ジヒドロビオプテリン、BH4)が検出された。これらの患者では、特にBPとBH4のレベルが正常の約50~70%にまで低下していることが分かった。BPの生合成に関わる酵素群はドーパミン神経やセロトニン神経に局在し、脳脊髄液中のBPの約80%は黒質線条体系ドーパミン神経に由来することから、被験者の患者でみられたBPとBH4レベルの低下は、脳組織の萎縮や神経変性という病態を反映するものだと考えられた。今後サンプル数を増やし、BP代謝の詳細を明らかにすることにより、関連疾患の病態理解や病因解明に繋がる可能性が示唆された。
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