今年度は、計画段階では予想もしていなかった結果が大規模な情報科学的解析から得られ、現在論文を投稿中である。 まず、全世界に分散する原生生物ゲノム情報を大規模に収集し、シアノバクテリア由来遺伝子を探索する目的で、新たなゲノム規模系統解析プログラムを開発した。これを用いて、ゲノムデータを出発点として個々の遺伝子に関する分子系統樹を自動で作成するパイプラインを開発・実装し、様々な真核生物のゲノム情報からシアノバクテリア由来と考えられる「植物型」遺伝子を探索した。またこの際、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターのスーパーコンピュータシステムを利用し、高速のゲノム規模解析を実現することが出来た。その結果、驚くべきことに、真核生物の二大分類群の一つであり、植物(陸上植物とほば全ての藻類)、鞭毛アメーバなどが含まれる「バイコンツ」においては多<のシアノバクテリア由来遺伝子が発見され、それら遺伝子を分子系統学的に解析したところ、その起源は太古の一次共生あるいは二次共生に由来する可能性が高いという結論を得た(丸山ら、論文投稿済み)。興味深いことに、ヒトを含む動物や菌類、粘菌などが含まれる「ユニコンツ」ではそのようなシアノバクテリア由来と思しき遺伝子は殆ど発見されなかった。最近の研究では「バイコンツ」=「広義の植物界」という説も提案されている(Nozaki 2005 J Plant Res;野崎ら、投稿済み)ことを考え合わせ、本研究により、真核生物の根元、特にこれまで考えられていたよりもっと分岐の深い時点で、葉緑体の獲得(一次共生)が起こっており、その後に多くの系統で葉緑体(色素体)が失われた可能性があるという進化仮説が導かれた。この結果をふまえ、今年度の成果を国際誌に論文として投稿済みであり、現在査読中である。
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