本研究では、植物の誕生、即ちシアノバクテリア様生物の細胞内共生によって葉緑体(色素体)が獲得されて以来、共生体から宿主の真核生物のゲノム中へと移行してきた「植物型遺伝子」というものに注目し、藻類・非光合成原生生物においてそれらの遺伝子の進化的・機能的保存性を解明することを目的に解析を進めた。 昨年度の成果をさらに拡大し、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターのスーパーコンピューターシステムを利用した高速の大規模ゲノム解析を、形態学的・分子系統学的に系統が明らかになっている非光合成原生生物の培養株を対象に行った。この結果、種々の生物の核ゲノムにおいて、これまで伝統的には「植物」に含まれていなかった原生生物の系統に多くの「植物型」遺伝子が存在することを発見した(Maruyama et al. 2009 BMC Evol Biol、Nozaki et al. 2009 Mol Phylogenet Evol)。これらの遺伝子の存在は、遺伝子水平伝達という進化的なイベントによりもたらされたと考えられるが、有力な仮説の一つは、太古の真核生物の祖先において葉緑体が獲得され、多くの系統では二次的に葉緑体を失ったために、「植物型」の遺伝子だけがゲノム中に残った、というものである。これは「植物」の概念を再定義する非常に重要な発見であり、今後の真核生物の起源、葉緑体の起源に関する議論の発展に大きく貢献するものと自負している。また、真核生物同士が遺伝子交流・水平伝達・細胞内共生的伝達を盛んに行うことによって、現在の我々にとっては複雑なパターンを示す真核生物ゲノムが確立してきたことを示すことができたことも、今年度の重要な成果であったといえる。
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