本年度は、「すざく」衛星が2008年にVery High状態にあるブラックホール連星GX 339-4を観測し、この天体に関して詳細な解析を行い、論文を投稿し受理された。この天体は、降着円盤からの放射が卓越するソフト状態の「てんま」衛星の観測結果から、円盤放射から推定した内縁半径はほぼ最終安定軌道に等しいことからという結論が得られており、回転が非常に小さいブラックホールという結果が得られていた。同じ「すざく」衛星のデータから、海外の研究者らは回転がひじょうに早いという矛盾する解を公表しており、これに決着をつけるべく、私が「すざく」データの解析を行った。解析した結果、連続成分の光子指数をわずかに変えるだけで広がった鉄輝線が消えることがわかり、さらに海外の研究者らの結果は、パイルアップやテレメトリの飽和の補正をしていないだけでなく、XISとHXDに対して光子指数が0.2も異なるモデルを用いていることを突き止めた。我々は円盤放射から推定した内縁半径と、鉄輝線の広がりから推定した内縁半径が無矛盾な解を探し、その解から、GX 339-4の回転がひじょうに小さいとする過去の「てんま」衛星の結果を支持する結果を得た。その一方で、私は、「すざく」衛星搭載硬X線検出器の較正を行った。硬X線検出器に用いられている光電子増倍管は、軌道上で時間と共に複雑にゲインが下がる事が分かっている。これは必要最低限のパラメータでモデル化されていたが、再現精度の向上のため、衛星の軌道上での位置を考慮にいれ、更なる精緻化を行った。さらに、エネルギースケールに関しても、地上データを精緻に取り込むことで精度をさらに向上させ、バックグラウンドやレスポンスの改訂などの作業を行った。
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