1.mTOR活性化阻害作用を有する試薬TPCKを用いた構成因子の同定 TPCKが既知mTOR経路上のどの辺りに作用しているかを調べるために、mTOR活性化因子Rheb過剰発現および酸化剤PAO(Phenylarsine Oxide)用いた解析を行った。これらはいずれもアミノ酸量とは無関係にmTORC1活性を上昇させることが知られているが、TPCKはこれらによるmTORC1活性化を阻害したことから、TPCKの作用点はmTORC1であると考えられた。 次に蛍光標識されたTPCKを用いて、mTORC1に含まれる構成因子のうちのいずれかにTPCKが結合するかについて検討した結果、候補としてmTORの可能性が考えられた。TPCKとmTORとの共有結合の可能性を、質量分析によりさらに検討しmTOR内の2ヵ所にTPCKが結合している可能性が得られた。 2.酵母での活性亢進型TORを利用した遺伝学的スクリーニングによる活性制御因子の同定 酵母TORC1の不活性因子の同定を目指して、遺伝学的スクリーニングを行った。約30万クローンのスクリーニングから、生育を回復させた候補として4つのcDNAクローンを得た。 最近報告されたTORC1基質であるSch9に対するリン酸化抗体を作製し、TORC1不活性化状態であるRapamycin添加や窒素源飢餓に伴い、Sch9が速やかに脱リン酸化されることを見いだした。これは今後、酵母でTORC1活性を知る上で有益なツールとなる。 スクリーニングで得られたcDNAクローンのうち1つがその過剰発現時にSch9のリン酸化低下をもたらした。この遺伝子産物は機能未知であり、ほ乳類には保存されていない。しかしながら、この機能未知遺伝子産物がどのようにして酵母TORC1経路を負に制御しているか興味深いため、今後、酵母においてさらに解析を進めていく予定である。
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