前年度に同定したmTORのTPCK修飾候補部位について解析を進めた。同定されたアミノ酸残基をそれぞれAlaあるいはPheに置換したmTOR変異体を作製し、これらを導入した細胞でS6キナーゼのリン酸化がTPCK耐性を示すかを検討した。しかしながら、これらの変異体においてもTPCK耐性を示さなかった。そこで、mTORC1免疫沈降物にTPCK化されている分子が含まれているかを検討するために、抗TPCK抗体を作製し調べたところ、約70kDaの分子がTPCK化されていることがわかった。質量分析計を用いてこの分子を同定したところ、pyruvate dehydrogenase complex E2 component(PDC-E2)であった。PDC-E2はピルビン酸からアセチルCoAを作る解糖系の酵素のサブユニットの1つである。代謝系酵素とmTORC1との間の直接の結合はmTORC1が栄養源シグナル伝達を担う中枢の分子であることからも興味深い。 酵母TORC1の負の制御因子の同定を目指して、新たな遺伝学的スクリーニングを行った。酵母ゲノムライブラリーの導入により、遺伝子産物の過剰発現時に生育を回復させるクローンの取得を行った。得られた9つの遺伝子産物過剰発現時のTORC1活性への影響を調べたところ、そのうちの1つPBP1を過剰発現した場合に窒素源刺激後のTORC1活性化が有意に低下していた。しかし、グルコースによるTORC1活性化は抑制しなかった。これらのことから、Pbp1過剰発現によるTORC1活性化阻害は窒素源の感知からTORC1活性化に至る過程に特異的であることが考えられた。Pbp1の哺乳類ホモログであるataxin-2過剰発現においてもアミノ酸刺激によるmTORC1活性低下がみられており、この阻害作用は保存されており、これらの分子のTORC1経路への重要性が示唆される。
|