本年度は、18世紀におけるジョン・ウェブスター改作劇を通じて、「秘密結婚」という女性にとって重要な意味を持っていた社会問題がどのように人々のあいだで受け止められていたかということの事例の一端を浮かび上がらせることを目指した。中心として取り上げた劇は、ルイス・ティボルト(1688-1744)作The Fatal Secretである。この劇は、イギリス演劇史上、女性を主人公に据えた最初の作家ともいえるウェブスターの悲劇The Duchess of Malfiの改作であり、1733年に初演され、1735年に初版が出版されている。 秘密結婚禁止の法案('An Act for the Better Preventing of Clandestine Marriages')は議会で何度も否決された後、1753年に制定されたが、ティボルトの劇が上演された1730年代はその是非をめぐる議論が白熱した時期に当たる。最も興味深いのは、秘密結婚をしたヒロインが処刑されるというウェブスターによる原作の悲劇的なプロットが、ティボルトによる改作ではハッピーエンドに書き換えられている点だ。本年度の研究では、このハッピーエンドへの書き換えが社会的文化的観点からみて、何を意味しているのかを考察することにより、秘密結婚という女性を取り巻く事例が社会でどのように受けとめられていたかを探った。この考察をする際、特に軸としたのは、以下の3点である。 1.女性の視点がどのように反映されているか。 2.原作が書かれた時代と改作が書かれた時代における、秘密結婚の社会的な位置づけがどう違っているか。 3.18世紀初期に執筆された、秘密結婚を主題とする他の劇作品において、その主題がどのように扱われているか。 なお、本年度の研究成果の一部は、第47回シェイクスピア学会(2008年10月11日、岩手県立大学)にて口頭発表された。
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