研究概要 |
採用第二年度は、エリート分析が主流のロシア政治研究において後景に退きがちであった選挙民・大衆の動向を説明の枠組に組み入れる「大衆論の復権」と比較地方エリート分析の研究との接点を見出すことを主要な目的として研究を進めた。この第一の目的に向けた試論として、恩典現金化法案施行時におけるハバロフスク地方の政治状況に関するケーススタディから、地方行政府による公共サービスの提供がもたらす機能を明らかにしようとした論文(Who takes care of the residents? United Russia and the regions facing the monetization of l'goty)をActa Slavica Iaponica誌に投稿し、査読の結果、同誌第28号への掲載が決定している。第二に、「大衆論の復権」を論じるうえで重要な政策領域となる福祉政策についての研究動向を自分なりに整理し、その中でソ連・ロシアの事例が持つ意味を明らかにすることを目指した。その経過報告として、Linda J.Cook,Postcommunist Welfare States : Reform Politics in Russia and Eastern Europe(Ithaca : Cornell University Press,2007)を取り上げて書評を執筆した(国家学会雑誌第123巻1・2号に掲載)。第三の課題は、上記二つの課題を踏まえたロシアでの資料収集である。資料収集の主目的は、新聞などの一次資料を参照しながら市場経済への移行過程における地方行政府の社会政策の変遷を明らかにし、研究が蓄積されている比較エリート分析と照らし合わせることにある。本年度は主にモスクワにおいて図書館での資料収集を中心に行ったが、来年度はモスクワだけに限らず、各地方でのフィールドワークも含めた資料収集に取り組む予定である。
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