研究概要 |
平成20年度においては、アルフレッド・テニスンの「物語詩的抒情詩」の分析研究を行った。具体的には、Poems(1842年)所収の"St Simeon Stylites"をはじめとする劇的独白詩、及び長編詩The Princess(1847年)に焦点を当て、前者においては「精神」と「身体」、後者においては「ゴシック(中世主義)」と「古典主義」という対立する二つの軸のあいだを揺れ動き、どちらの立場に荷担するのか決定できずに逡巡する話者像について考察を加えた。いずれの詩においても、逡巡の先に明確な結論が据えられたり、弁証法的止揚が導きだされたりするということはなく、逡巡自体がドラマティックに提示され、それが話者の心理を立体的に浮かび上がらせるものとなっている。それを、保守か革新かという明確な政治的・宗教的態度表明を保留したテニスンの態度(この点についてはSeamus Perry,Alfred Tennyson(2005年)に拠る)と連続性を持つものであると捉え、詩的創作と政治的・宗教的傾向との接点を示唆した点に20年度の研究の意義があると考えられる。テニスンの作品においては、"penultimate moment"、すなわち結論に至る前に寸止めで詩を終わらせる点が特徴的であることはChristopher Ricks,Tennyson(1972年)において既に指摘されている通りであるが、そのような詩の結末における保留という側面について、文体論的・修辞的に論じるのみならず、以上のように政治的・宗教的視点をも包含して捉え直した点に本研究の重要性はあり、21年度も継続して議論を行う。
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