特別研究員採用第1年目にあたる平成20年度は、当初の進行計画に則りつつ、各種の資料調査を実施した。まず国立国会図書館憲政資料室などの諸機関に所蔵されている未刊行資料について調査し、日露戦後期の閣僚経験者や政党指導者が残した私文書の分析を進めた。また衆議院・貴族院の予算委員会の議事録を読解し、原敬などの政友会幹部が、予算審議過程で果たした役割を考察した。今後は政友会指導者の未刊行私文書などを、さらに広範囲にわたって調べていくことが求められる。また政友会と対峙した藩閥指導者である桂太郎・後藤新平らの資料も幅広く調査した。桂に関しては、桂が陸軍に務めていた頃の新たな資料を求めて調査したが、残念ながら期待したような成果は得られなかった。後藤については、いくつかの新資料の存在を知ることができた。これらの資料調査をふまえ、次年度(平成21年度)には、日露戦後から大正政変にかけての財政問題の展開について、より体系的な分析を試みたいと考えている。なお政党勢力の台頭過程を考えるためには、狭義の政治指導者のみに注目するのではなく、広く一般国民の政治意識も把握する必要がある。そこで大正デモクラシーの主唱者として有名な吉野作造に着目し、彼の東大法学部での政治史講義を筆記した学生のノートを発掘し、「吉野作造講義録研究会」という研究会を組織して翻刻作業に取り組んでいる。今年度は、その成果の一部を『国家学会雑誌』で発表した。またアメリカ研究の先駆者である高木八尺の関係文書を調査し、高木と吉野の関係について小文を執筆した。これらの作業は、当時の日本政治を、ヨーロッパやアメリカの政治と比較分析する上で有益であると思われる。
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