特別研究員採用第2年目にあたる平成21年度も、当初の計画に基づいて研究を実施した。まず前年度に引き続き、国立国会図書館憲政資料室などで未公刊資料の調査を行った。また京都大学大学文書館、奥州市立後藤新平記念館、福岡県地域史研究所などを訪問し、所蔵されている未公刊資料を閲覧した。この他にも政友会幹部などの未公刊文書の調査を企画したが、予算の都合や資料の公開状況などで断念し、マイクロフィルム版での代用を試みたものもある。さらに衆議院・貴族院の予算委員会議事録の読解を継続し、予算審議過程に詳細な分析を加えた。こうした二年間の作業をふまえ、近代日本の政党政治の確立過程を考察する本研究は、現段階では以下の知見に到達した。政友会が政権構成主体として台頭する過程は、予算編成能力を養うプロセスとして理解できる。創設から間もない時期の政友会は、政権担当勢力となっても予算編成過程で混乱が生じ、閣外勢力に助力を仰ぐことが多かった。しかし在野時に桂太郎内閣との予算交渉の経験を重ねるにつれて、次第に政友会は国家財政の制約を認識しながら自らの目指す積極政策を実現させるための政策能力を蓄積していった。第二次西園寺公望内閣が独力で編成した明治四五年度予算を無事に成立させることができたのは一つの到達点と位置づけられる。現在執筆中の博士論文では、これらの展開を鉄道予算の編成・審議過程に引きつけて具体的に検討している。なお、その内容の一部は、近く刊行予定の明治期の後藤新平日記の解題(入稿済)として、博士論文とは別の形で公表することになっている。また前年度から共同研究に取り組んできた「吉野作造講義録」については、資料翻刻の連載を無事に完結させることができた。今後も吉野の政治史講義について研究を続けていく予定であり、講義ノートの資料情報の提供を広く呼びかける小文を研究会メンバーと共同で執筆した。
|