研究概要 |
本研究課題の目的である,約12万年前の温暖期(最終間氷期)における近畿地方での森林変化を明らかにし,温暖期の気候システムの変化が森林に及ぼす影響について解明するために,本年度は以下の内容の研究を実施した。 1、京都盆地北部深泥池について花粉分析と放射性炭素年代測定を行ない,最終間氷期に相当するものと考えられる層準において,温暖期に増加するコナラ属アカガシ亜属の花粉や,現在では沖縄にのみ自生種が生育しているサルスベリ属の花粉が検出された。今後,本層準について高精度での花粉分析をさらに進めていくことで,最終間氷期の森林変化について解明していく事が可能となった。 2、琵琶湖堆積物の最終間氷期と現在の温暖期の層準にあたる花粉分析結果の対比を行なった結果,最終間氷期の初期には現在の温暖期と比べてブナが多く生育していた事,さらに後期にはコナラ属アカガシ亜属から成る照葉樹林の拡大が少なかった事が示された。これらの森林変遷の差異は,最終間氷期における夏と冬の気温の較差や降雪量が影響しているものと考えられる。 3、ドイツのボン大学での第12回国際花粉学会議,フランスのボルドー第一大学での過去の急激な温暖化による植生の変化に関するワークショップに参加し,本研究成果について発表し,関係研究者との議論を行なった。近年,ヨーロッパでは最終間氷期の環境変動に関する研究が盛んであり,世界で活躍している研究者の研究を学び,議論できたことで,今後,本研究課題を進めるにあたっての貴重な指針を得る事ができた。
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