果実はその内部に種子を含む器官であり、受精後に雌しべが肥大・成長し成熟することによって形成される。開花後の花のうち、受精した雌しべが急激な成長を開始する一方で、受粉もしくは受精しなかった雌しべは生長しない。つまり、雌しべが果実に転換するためには、受粉・受精から引き起こされる一連のシグナルが必要である。その一方で、人工的に植物ホルモン処理をすることにより、種子を持たない果実(単為結実)を誘導できることが知られている。受精から果実が成長を開始する、即ち、着果における機構の研究は、この単為結実と受精より誘導される果実形成を用いて行われてきた。これまでに、トマト、シロイヌナズナなどの植物で、植物ホルモンであるオーキシン(IAA)が着果を引き起こすホルモンであるとともに、果実成長に関与する植物ホルモンであるジベレリン(GA)の合成を活性化させることが知られている。本研究は、重要な作物であり、モデル植物であるイネにおける果実の初期生長の分子機構に焦点を当てて研究を進めている。21年度は、イネにおいてもIAAによる単為結実の誘導がみられることら、子房の開花前後におけるIAAの測定を行い、イネにおいてもIAAが着果を引き起こすホルモンであることを確認した。また、イネの初期子房成長における生長制御因子の探索を行うために、DNAマイクロアレイを用いた網羅的発現解析により試みた。その結果、トマトやシロイヌナズナで果実成長に関連ある遺伝子として知られるARF遺伝子群に属する遺伝子が得られた。ARFは、トマトにおいて果実成長を負に調節する遺伝子であることから、イネにおいても同様の機能を持つ可能性があると推定される。現在、ARFおよび他の遺伝子について、イネ子房成長に対する機能を明らかにするため、形質転換体の作成を行っている。
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