近年ガラス転移近傍において、運動に協同性が発現し、この協同領域の空間スケール(動的相関長)はガラス化に伴い大きくなることが明らかとなってきた。これを動的不均一性と言い、ガラス転移現象の起源の一つと考えられている。一方、動的不均一性の起源はわかっていない。そこで、本年度は、動的不均一性の起源について考察すべく、一般の実験との対比も可能である、三次元コロイド分散系の計算機実験を行った。本系の特徴は、粒径の分散(粒子の大きさの分布)の大小の制御が可能であり、粒径分散の小さいときは、高体積分率化において、系は結晶化する一方で、粒径分散の大きい時は、ガラス的な挙動を見せる。本研究では、まず、ガラス的挙動を見せ始める粒径分散の値を、静的構造因子から見積った。すると、およそ6%以上の時、結晶化か阻害されて、高体積分率時においてガラス転移が観測されることを確認した。次に、ガラス転移点近傍における、静的な構造を観察すべく、球面調和関数から計算される、秩序変数を各粒子に対して計算した。すると、局所的に秩序度の高い領域が存在することを確認した。さらに秩序度の高いクラスター内の構造を、静的構造因子などを用いて調べると、それらが結晶の一種である六方最密充填構造をとっていることがわかった。この様な秩序を構成している粒子の運動性を測ると、比較的遅い粒子から構成されていることを確認した。これより、我々が見つけた結晶的な中距離秩序が、三次元においても動的不均一性の起源のひとつとなっていると言うことが可能である。以上我々は、結晶的中距離秩序の存在が、ガラス転移を特徴付けるスローダイナミクスと密接に関係していることを強く示唆する結果を得た。このことは、結晶化に対するフラストレーションの強さが、ガラスになりやすさ、また、ガラス転移そのものの性質を制御していることを意味している。つまり、ガラス化はフラストレーションの影響下での隠れた結晶化の過程であると考えられる。
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