平成20年度までの本研究から、(1)胎生期マウス大脳脳室帯に際立ってslow-dividingな細胞群が存在し、この細胞群が成体神経幹細胞のoriginである可能性があること、(2)CDK inhibitorとして知られているp57(Kip2)が成体神経幹細胞で発現しており、この発現が成体神経幹細胞のquiescenceの維持に必要であること、(3)胎生期のslow-dividingな細胞群は周囲の細胞に比べて強くp57(Kip2)を発現していること、などが示唆されていた。しかしながら、胎生期のslow-dividingな細胞群の出現にはp57の発現が必要かどうかは分かっていなかった。したがって、平成21年度にはこの点について検討した。P57のコンディショナルノックアウトマウスを用いた解析から、p57をノックアウトすると胎生期のslow-dividingな細胞群が出現しないことが分かった。すなわち、胎生期のslow-dividingな細胞群の出現にはp57の発現が必要であることが示唆された。また、胎生期大脳においてp57を発現している細胞が成体神経幹細胞のoriginである可能性があることから、これらのorigin細胞がいかに選抜されるのかを解明する目的で、p57の発現の制御メカニズムを調べた。その結果、神経幹細胞の未分化性の維持に関わることが知られていたNotchシグナルが、p57の発現を促進することが示唆された。この結果は、胎生期において成体神経幹細胞の起源細胞が選抜されるメカニズムを解明する鍵となる可能性があり、大変興味深いものである。さらに、これまでの本研究の成体神経幹細胞に関する解析は、成体の大脳に二ヵ所ある幹細胞Nicheのうち一方(Subventricular Zone)のみに限られたものであったので、残されたもう一方(Dentate Gyrus)についても、幹細胞でp57が発現しているか、またその発現が幹細胞のquiescenceの維持に必要かについて検討した。その結果、Dentate Gyrusにおいても幹細胞でp57が発現しており、またその発現が幹細胞のquiescenceの維持に必要であることを示唆する結果を得た。
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