研究概要 |
触覚知覚の原理的解明に重点を置き,触覚における時間知覚についての解析を行った.触覚における短い時間の知覚は感覚運動系と密接に結び付いており,その理解・解明の望まれる分野である. ヒトは視覚情報処理において,サッカードを行いながら時差を持って得られた断片的な映像情報をつなぎ合わせ,広大な空間像を手に入れている.一方で触覚情報処理においては,体中に広がって存在する触覚受容器から得られた情報をつなぎ合わせ,時間方向に並べ替え解釈していると言え,この仕組みを調べる事で中枢での情報の流れを推測する事が可能となる.本研究では,比較的初歩的な同時性の判断からやや応用課題となる時間間隔の判断まで,全てに通じる二つの知見を得た.一つは,触覚の時間判断は刺激を加えた部位に依存して変動する,というものである.これはユーザインタフェースの設計を行う際にも慎重に考慮すべき知見である.もう一つは,触覚の時間判断は刺激を加えた位置には依存しない,というものである.視覚においては,刺激の空間位置による影響は比較的よく知られている.つまりこの空間"非"依存性は触覚というモーダルの特殊性を物語っていると考えられる. また,本研究では心理物理実験を行う際に電気刺激法を導入した.これまで医療用や記号提示に用途の限定されてきた電気刺激であるが,実際に皮膚表面を変形させない本手法は,実験条件を揃えやすい等の理由から今後心理物理実験の分野において十分に需要の見込まれるものと考えられる.今回,これまで機械刺激で行われてきた先行研究の追試を電気刺激にて行った所,等しく同時性の判断を行う事が出来,また運動感も得られた.この事実により,電気刺激で活性化可能な受容器(Meissner小体)の出力というものが我々が日ごろ得ている運動感と密接に関わっている事が直接的に示された.
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