継続的に実施してきたフィールドワークを平成22年度は控え、これまで収集してきた資料を整理、分析することに専念した。まずは、エチオビア・ボサト地区ボリ村の地域住民が日常的に実施する儀礼についてである。当地では、村の霊媒師の儀礼小屋で日常的に宗教集会が開催され、そこで、ひとびとは、貧困や疾病といったさまざまな「悩み」を霊媒師の持つ精霊へと相談する。「悩み」がどのようにして生じたか、誰との間で、どのように展開したかといった「悩み」の具体的詳細を人々に尋ね、その対話をもとに、精霊が「悩み」を持つ人間に助言を与える。これまで研究代表者は、当該儀礼の様子を録音、撮影し一次資料を集めてきた。そこで、平成22年度は、当該儀礼の映像、音声データの文字起こしを行い、統計資料を作成した、参加者数、「悩み」の語り手の数.「悩み」の特徴、精霊の助言の与え方などについて数値化、文字化することで一次資料を整理した。 次いで取り組んだのは、アルシ地方の参詣地ファラカサ聖者廟で行われる儀礼についてである。研究代表者は、ファラカサ聖者廟への参詣儀礼についても調査、撮影を継続してきた。ファラカサ聖者廟で執り行なわれる儀礼は、ボリ村同様に「悩み」が参詣者によって語られるが、ひとびとの「悩み」の語り方には、ボリ村とのそれと特徴的な差異があることがわかった。 欠かさずに精霊に供犠をしているか、奉仕をしているかといった人間と精霊との関係がファラカサでは焦点化され、「悩み」の発生、経過といった、実生活での具体的な事象はそこではわずかに語られる程度である。 「悩み」の助言をめぐるこの両地の差異は、村で行う儀礼では解決不可能な「悩み」においても、異なった位相で問題を捉え直す参詣地ではそれが解決可能なものとなるのではないか、という希望をひとびとに与えるものであることがわかった。
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