当研究員の研究課題はイギリス・ルネサンスの悲劇における女性表象ぞある。2008年度はこのテーマに関する考察を深めるべく、主に三つの角度から研究を行った。 まず、年度初頭に提出した研究計画にのっとり、修士論文で取り扱ったシェイクスピアの恋愛悲劇『アントニーとクレオパトラ』についての研究を継続し、ほぼ完了させた。具体的な研究内容としてはこの作品における贈与とジェンダーの問題に着目し、2008年5月に行われた大澤コロキアム及び10月に行われたシェイクスピア学会で研究成果の一部を発表した。また、イギリス・ルネサンス悲劇におけるクレオパトラの表象に関する論文を執筆し、一部を2009年5月の英文学会で発表する予定である。 二つめの方向性としては、男性が女装して舞台に立っていたイギリス・ルネサンス演劇における女性表象について考察するためにはテキストのみならず実際の舞台公演について分析能力を高める必要があると考え、舞台上演に関する分析をいくつか試みた。手始めに蜷川幸雄が演出したオールメールキャスト版『お気に召すまま』を取り上げ、クィア批評の観点から予備的な研究を行った。この研究成果については2008年11月の表象文化論学会研究発表大会で発表し、また論文を『比較文学・文化論集』25に掲載した。 三つめとしては、イギリス・ルネサンス文学における女性の身体表象について考察するため、とくに妊娠や月経といった女性の生殖機能が文学においてどう表現されているかという問題に関して様々な批評を読み進めた。このテーマについては、文学における一般的な月経の問題に関する予備的な研究の成果を2008年10月の身体医文化研究会例会にて発表したが、まだ研究を開始したばかりであるため、イギリス・ルネサンス悲劇における女性の身体表象に関する本格的な分析には至っていない。この点に関しては、次年度の課題としたいと思っている。
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