研究課題
本研究では、固体高分子形燃料電池用の細孔フィリング電解質膜について、構造とプロトン伝導度と物質透過性の特性を解析し、プロトン伝導機構の解明を行った。まず、イオン交換容量の異なるスルホン化電解質ポリマー(スルホン化ポリエーテルスルホン)の合成を行い、これを多孔質ポリイミド基材の細孔中に充填して細孔フィリング電解質膜を作製した。細孔フィリング電解質膜においては、多孔質基材の膨潤抑制効果により充填された電解質ポリマーの含水率が大きく低下することを明らかにした。さらに含水膜サンプルの低温示差走査熱量測定(DSC測定)を行い、キャスト膜は自由水を多量に含むのに対して、細孔フィリング電解質膜は自由水を含まず、構造化された束縛水・不凍水のみを含むことを解明した。細孔フィリング電解質膜のメタノール透過性は、従来のNafion膜と比較して1/100-1/300の極めて低い値であり、これは構造水のみを含む膜の構造に由来することを明らかにした。プロトン伝導度はイオン交換容量に比例して増大し、最大でNafion膜と同等の0.06(S/cm)を示した。プロトン伝導の活性化エネルギーはイオン交換容量の増大に伴い、18(kJ/mol)から9(kJ/mol)まで低下した。キャスト膜では10(kJ/mol)から12(kJ/mol)程度の一定値を示した。細孔フィリング電解質膜においては、構造水のみを含む状態でイオン交換容量、すなわちスルホン酸基の密度に依存して活性化エネルギーが変化する傾向を示した。細孔フィリング電解質膜に含まれる構造水中におけるプロトンの拡散係数をNernst-Einstein式を用いて解析したところ、スルホン酸基密度の増大に比例して拡散係数が増大する傾向が確認された。高密度のスルホン酸基によってプロトンが高速に伝導する新しい特性を確認し、燃料電池用電解質膜開発の新しい方向性を示した。
すべて 2009 2008
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Macromolecules 42
ページ: 980-986
Journal of Physical Chemistry, B 113
ページ: 4656-4663