本研究は、架橋配位子として酸化還元活性な複素環補酵素を用いて金属-配位子間の相互作用により電子構造が高度に制御された集積型金属錯体の開発を目指したものである。平成20年度は、複素環補酵素を配位子とするルテニウム錯体を用いて集積型金属錯体の機能化に向けて有用な新たな特性を明らかにした。ルテニウム-プテリン錯体のプロトン化体の結晶構造及び一電子還元体のESRスペクトルから、ルテニウム-プテリン錯体に1当量の酸を添加すると、プテリン配位子のプロトンは1位の窒素原子から8位の窒素上にプロトンシフトすることが明らかになった。また、ルテニウム-プテリン錯体を用いてその光化学挙動を検討し、光照射によってプテリン配位子が反転し、異性化を示すことが明らかとなり、そのメカニズムを明らかにした。その結果同じ複素環補酵素を有する錯体であるルテニウム-アロキサジン錯体の異性化反応と異なるメカニズムで進行することが明らかとなった。さらに、フラビン類縁体であるアロキサジンを配位子として、ペンタメチルシクロペンタジエンを有するイリジウム錯体と反応させ、結晶化を行うことで、3つのアロキサジン配位子が4つのイリジウムを介して集積したイリジウム4核錯体を形成した。これはアロキサジン配位子を用いて多核錯体を合成した初めての例である。これらの結果は、複素環補酵素を架橋配位子とする機能性集積型金属錯体の開発に向けて重要な知見を与えるものである。
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