平成21年度は、酸化還元活性な複素環補酵素の酸化還元挙動、配位結合、分子間相互作用、プロトン脱着との相互関係を利用した機能性集積型金属錯体の開発を目指すために、集積体の構成要素となり得る、複素環補酵素であるプテリンを有するルテニウム錯体についてプロトン共役電子移動特性の検討を行った。このルテニウム-プテリン錯体は可逆な2電子、2プロトン移動を示す。それにより生成する各電子状態、プロトン化状態を持つ化学種間についてのキャラクタリゼーションを行い、それらの化学種間の電子移動、プロトン移動、水素移動の熱力学的パラメータをすべて決定した。得られたパラメータを基に、ルテニウム-プテリン錯体と種々のフェノール類との間の水素移動反応を検討した。その結果、これらの水素移動反応がプテリン配位子とフェノール類との水素結合アダクトの形成を経て進行することを明らかにした。また、プテリンのアミノ基をジメチルアミノ基に置換した配位子を用いて、水素移動反応速度の比較を行うことで、基質との水素結合形成が水素移動反応を促進することを明らかにした。このように、各酸化状態、プロトン化状態のルテニウム-プテリン錯体が生成できたことは、これらを構築素子として使うこと多彩な集積型金属錯体が得られると期待される。またルテニウム-プテリン錯体のプロトン共役電子移動について得られた知見は、集積型金属錯体の機能発現に重要であると考えられる。
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