本年度は、近世温泉町の空間構造に関する考察を主な研究テーマに設定した。その調査研究成果をまとめて、審査付論文「近世温泉町の空間構造-熱海を素材にして-」を執筆した。これは『年報都市史研究』第16号(山川出版社、2009年2月)に収録され、刊行された。加えて本年度中には近代熱海に関する研究調査を複数の視角から深化させ、その成果を研究会やシンポジウムにおいて報告した。これらは次年度以降に展開させる予定である近代保養地の形成史研究において重要な基礎研究となるものでもあり、以上をもって、本年には年度計画に対する充分な結果をあげえたと考える。詳細は下記のとおりである。 2008年4月〜5月に進めた調査と検討をもとに、6月には日本建築学会「都市建築史的観点からみた中央と地方若手奨励特別研究会」において、研究報告「伝統的権利と空間-明治期熱海を事例に-」を行った(6月27日、於日本建築学会会館)。7〜10月には、昭和初期熱海に展開した「三業」(料理屋・待合・置屋)と私娼業の空間について、現地調査や資史料調査を進めた。この成果については、10月の準備報告会(10月13日、於東京大学工学部一号館)を経て、11月に都市史研究会2008年度シンポジウム「遊廓社会論」(11月1〜2日、於東京大学工学部一号館)にて「温泉場の「三業」空間-昭和初期熱海における料理屋・待合・置屋-」として報告した。12月には、6月に行った前掲の報告を基盤に、さらに調査と考察を発展させ、「伝統的権利と空間」と題して日本建築学会都市史小委員会2008年度シンポジウム「水平と垂直」(12月17日、於日本建築学会会館)にて報告した。 1月〜2月には、11月に報告した前掲「温泉場の「三業」空間」について、2009年度『年報都市史研究』の投稿論文とするための追加調査と執筆作業を進めた。 さらに2月には、近世熱海に関するこれまでの調査研究の成果をまとめた審査付論文「近世温泉町の空間構造-熱海を素材にして-」が、『年報都市史研究』(山川出版社)第16号に収録され、刊行された。 3月には、近代日本の保養都市に関する比較史的所見を得るため、海外事例の予備調査を行った。具体的には、イギリスのバース及びブライトン(3月11日〜25日)と、韓国の東莱(3月28日〜4月2日)である。
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