本採択課題では、「近代保養地の形成に関する都市史研究」というテーマのもと、近代に巨大化した温泉町である熱海や別府をはじめ、大磯や鎌倉など主として海浜に形成された近代保養地を主な対象に、建築史および都市史の観点から検討を進めてきた。巨大温泉町は、近代日本のある現象面が集約された産業都市として捉えることができ、大磯や鎌倉などは保養と近代の居住にかんする諸問題を把握しうる事例である。 本研究は、従来建築史学の分野から行われてきた都市史研究に対して、〔1〕地方地域の近代都市化過程への注目、〔2〕都市と地方地域の関係そのものを都市史の方法論として検討すること、〔3〕これまでほとんど未開拓である温泉町や保養地、観光地にかんする研究、〔4〕社会構造にかんする検討を積極的に空間に落とし込む方法の開拓、〔5〕場所のイメージと都市形成にかんする方法論の提示、などの視角において新規性と独自性をもち、具体的な研究過程においては、(1)近世近代移行期における伝統的社会および空間構造の変化にかんする検討をメインテーマとし、(2)伝統的社会および空間構造の解明、(3)資源開発と都市形成について、(4)伝統的権利と空間の関係について、(5)芸娼妓の社会および空間について、(6)保養都市、観光都市の形成と場所のイメージにかんする方法論的検討、などを主たるサブテーマとして報告を行ってきた。 本年度はとりわけ(5)と(6)について重点的に考察をすすめた。その成果は「11.研究発表」に挙げるとおりである。また、本採択課題の研究テーマに関連したアウトリーチ活動を、本年度も継続的に実施した。
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