本年度は、東京芸術大学、東京大学、日本大学、女子美術大学で一次資料の調査を行った。また、東京文化財研究所において明治時代後半から第二次世界大戦までに発行された美術関係雑誌を包括的に閲覧し、美術教育にかかわる記事を渉猟した。東京芸術大学では、大学美術館の熊澤弘助教の協力を得、美術館所蔵の東京美術学校物品台帳(いわゆる「旧台帳」)のうち、石膏像の購入および棄損に関する情報が掲載されている部分(190頁分)を撮影した。これにより、東京美術学校を中心とした西洋美術摂取の過程が極めて詳細に分析できるようになった。また、本資料は保存状態が極めて悪く、閲覧が厳しく制限されてきた貴重資料であり、今回のデジタル化により後続の研究者による調査が容易になった。また、同美術館の古田亮准教授の協力を得、東京芸術大学資料室所蔵資料を調査し、現存する石膏像の保存状況や使用状況も明らかになった。東京大学では、工学部建築学科の藤井恵介教授の協力を得、石膏像コレクションの調査を行った。今回の調査では、東京大学所蔵の石膏像が製作された海外の工房の特定、その制作方法、日本での使用状況、今日の保管状況等の様々なデータが得られた。日本大学芸術学部と女子美術大学では、本学所蔵の石膏像および石膏像の購入・棄損台帳の調査を行なった。東京文化財研究所所蔵のデータベースを活用し、19世紀末から20世紀前半までに日本で刊行された美術関係雑誌15誌を創刊号から廃刊まで閲覧し、美術教育や美術留学に関する記事を渉猟する作業を行った。明治時代からの日本から欧米への美術留学生の実態と、留学生が日本に持ち込んだ西洋の美術教育制度や美学概念の変遷がつまびらかになった。この調査は、研究課題である戦後の米国への美術留学生の動機と、その背後にある欧米諸国とアジア諸国の美術ヒエラルキーに歴史的なパースペクティブを与え、分析する過程で極めて有効であった。
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