21年度、報告者は、研究発表、査読論文掲載、資料調査、現地調査などを実施した。それらの研究は戦後の日韓の歴史をメディア文化、とくにテレビ文化の側面から再考察することを目的とするこの研究において極めて重要な作業であった。まず、戦後日本の大衆文化の消費が禁止されているなかで、日本の放送の電波が韓国の釜山に越境していたことに着目し、その電波が韓国社会にどのような影響を及ぼしたのか、その電波をめぐる韓国社会のまなざし、戦略、経験はいかなるものだったのかを明らかにするための調査を行った。つまり、日本と韓国のあいだの文化交流を一方的な方向性をもつフローとしてではなく、さまざまなまなざしと戦略、経験がせめぎ合う場としてとらえるのである。その成果は、2010年1月に出版された「マス・コミュニケーション76号」に掲載した論文である。研究発表は、国内外の学会で総4回を実施した。それらの発表は、研究の成果を報告することだけではなく、メディアを通じて日韓の関係に新しい視座を与えること、他の国との新しい比較研究の可能性を見つけることを目的とすることであった。その他、戦後メディア文化形成期の状況、アメリカ側の視点、日米韓関係などを調べるため、アメリカ・ワシントンにあるナショナル・アーカイブで資料調査を行った。
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