研究課題
今年度の研究成果としては、インタビュー調査、ディスカッションなどを通じて、1.技術的には後追いであるサムスン電子における「リバース・エンジニアリング型開発プロセス」の概念の精緻化、2.製品アーキテクチヤの視点から技術的発展パターンを明らかにした。まず1に関して、サムスン電子は日本企業が提示したひとつのイノベーティブな新製品(設計解)から逆演算を行い、構造設計→機構設計→機能設計→機構設計→構造設計というプロセスをたどり、グローバルな各地域に合わせた幾つもの別解をつくり出す、という一連の流れを概念化した。そして、それらの別解は、情報収集力を駆使して、各地域ごとに異なる要求品質・価格に適正化されるのである。一方、日本企業はあくまでも「フォワード・エンジニアリング型開発プロセス(機能設計→機構設計→構造設計)」を指向し、日本市場の要求品質に合わせて開発した製品をグローバル展開するために、過剰品質、過剰性能に陥るばかりでなく、必要な機能さえも見落とす傾向にある。このような違いが、日本企業と韓国企業のパフォーマンスの差に結びついているのである。2に関して、アーキテクチャの視点から見たサムスン電子の技術的発展パターンは、まずは汎用的な部品の組み合わせで、汎用的な顧客を対象にして市場に参入し、次に汎用的な部品をうまく組み合わせながら、顧客ごとにカスタマイズするという「DELL型の戦略」が観察された。一方、SDIは、まずは部品をすり合わせて、特定の顧客を対象に市場に参入し、次に部品をすり合わせて、汎用的な顧客に販売するという「インテル型の戦略」が観察された。上記2つの研究成果は、安易なイノベーション推進論に警鐘を鳴らす。すなわち、グローバル競争においては、革新的な新製品を開発することよりも、それをもとにいかに派生製品を展開するか、あるいはアーキテクチャ的に優位な位置取りにシフトするかが重要となる。
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新宅純二郎、天野倫文編『ものづくりの国際経営戦略』有斐閣
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European Operations Management Association 16th International Annual EurOMA Conference (Proceedings Paper) (掲載決定)
赤門マネジメントレビュー 7(4)
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東京大学ものづくり経営研究センター ディスカッションペーパー MMRC-212