本研究は、乳幼児が他者の発する情動・感情刺激を利用するメカニズムを明らかにすることを目的としている。生後12ヶ月頃の乳児が、他者の発する情動・感情刺激に応じて、その対象への行動を調整する「社会的参照」を見せることが、過去の研究から示されているが、そのような他者の情動・感情刺激の作用が、どのようなメカニズムによるものであうかは、明らかでない。また、生後12ヶ月に成長するまで、他者の情動・感情刺激を利用する行動が見られない要因についても、十分な検討が行われていない。 他者の発する情動・感情刺激を利用するためのメカニズムには、いくつかの段階が想定される。例えば、他者が何に対して刺激を発しているのか理解することや、発せられている情動・感情価を理解すること、発せられた情動・感情に相応しい方略をとること、などである。本年度は、情動・感情刺激が与えられた対象についての認知処理過程の変化に焦点を当て、主に乳幼児を対象に、2つの実験を行った。1つめの実験では、生後12ヶ月前後の乳児を対象に、映像中の他者による物体への共同注視が成立可能であるのかについて検討した。その結果、生後12ヶ月以前の乳児であっても、映像中の他者の視線の先を見つめる行動が生じることが観察された。2つめの実験では、生後7ヶ月児を対象に、他者の視線が向けられていた対象物と、同時に呈示されていても、他者の視線が向けられていなかった対象物で、認知的な処理が異なるかについて、脳活動計測を行い検討した。現在までに得られている結果は、生後7ヶ月の段階でも、対象物の認知処理において、他者の視線による影響を受けることを示唆している。 来年度も引き続き、乳幼児における他者の情動・感情刺激の利用について、様々な処理過程に細分化し、そのメカニズムを検討してゆく予定である。
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