2008年度の研究実績は、「戦後沖縄の思想」のなかでも特異な位置を占めている「反復帰・反国家」論の再検討を行った。その成果は主に、『沖縄・問いを立てる』の第6巻『反復帰と反国家』の最終章にまとめられている。 具体的に論じたのは、「反復帰・反国家」論の主要論客である新川明と岡本恵徳における「沖縄人」という名称を巡る問題と、新川の述べる「声にならぬつぶやき」という表明をめぐる問題である。前者は「集団自決」における暴力の問題を念頭に、新川が吉本隆明らの論をバックボーンに「異族」としての「沖縄人」を日本に対置するのに対して、岡本が「異族」としての「沖縄人」が国民国家的な回路を避けえないとして批判していることを論じた。後者(「声にならぬつぶやき」)に関しては、国家による主体化の強制(日本人/沖縄人)に抗する技法として新川の言説を論じている。新川は「君は日本人か?」という問いかけにおいて、沖縄の人びとはそのとき声にならないつぶやきとして「わたしは沖縄人だ」という言葉が垣間見えるという。この「声にならぬつぶやき」としてしか表明できない-瞬の戸惑いを、「声にならぬ」という否認と「つやき」としての承認として分節しつつ、その分裂したみぶりにおいてのみ国民国家の主体化の要請である呼びかけに抗する思想として抽出した。 そのことで、施政権返還がせまる70年前後の沖縄でどのような思想的営為が、日米の継続する軍事・植民地占領の思惑に抗していたのかを明らかにした。
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