本年度の研究成果は、近刊予定の『(仮)占領のまなざし』(田仲康博編著、せりか書房)に収録された「兵士たちの武装放棄」にまとめられている。その内容は、「沖縄の施政権返還/祖国復帰」の時期に、ベトナム戦争の前線基地として機能した沖縄で、住民運動やアメリカ本国の黒人解放運動、そしてベトナム反戦運動が複雑にリンクし、沖縄駐留の米兵による反戦運動があったことを、USCAR(琉球米国民政府)公安部の資料や、ベ平連などの資料を用いて解明したことにある。日本においては、ベ平連をはじめとする日本側の脱走兵支援に関する研究は、近年或る程度の成果をだしているが、駐留していた兵士たちによる「反戦運動」については、手つかずであった。特に、米軍の軍事占領下にあり、ベトナムへの出撃の最前線基地であった沖縄での活動はほとんど知られていない。本研究によって、1968年~70年ごろの米軍基地周辺の米兵の反戦運動を、彼らが発行した地下新聞などの資料をもとに描き出し、沖縄の労働者との連帯や沖縄で黒人運動を学習、吸収していった経緯などを明らかにした。本研究によって、「反復帰・反国家」論が、日本対沖縄の構図の中だけで語られてきたこれまでの研究に、占領者としてのアメリカ軍とそれに抵抗する反戦兵士という別の参照軸を加えることが可能となった。本研究は、そのような意味で、「戦後」という空間における沖縄のアメリカ占領を多角的に考察する重要な研究となっている。
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