昨年度の結果から発達性ディスレクシア研究には単に読み書きの障害だけでなく、学習(記憶)とその障害を検討する必要性が示唆された。そこで今年度は1)読み書き障害の心理学的研究、2)機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた記憶研究を行った。 1)読み書き障害を主訴とする児童の心理検査の結果、発達歴および検査プロフィールは従来の発達性ディスレクシア児と類似するものの、語い獲得が特に遅れている症例が存在した。これまで読み書き障害の背景として音韻操作能力や視覚認知機能の障害が推定されてきたが、それら要素的な認知機能障害に還元できない障害に対する介入の必要性が示唆された。 2)成人を対象に一連の刺激を学習させ、その後fMRI撮影中に学習した刺激と同一の刺激(Same)、学習した刺激と類似した刺激(Similar)、学習していない刺激(New)の三種類を呈示した。被験者は異なる判断基準基準(知覚判断基準:呈示された刺激が学習した刺激と見た目が同じかどうかと、意味判断基準:意味が同じかどうか)に基づき刺激の再認課題を行なった。解析では記憶に関連する海馬の活動を条件間で比較した。結果、New刺激においてSame刺激に比べ左海馬の活動が高かった。さらに同部位でのSimilar刺激に対する活動を検討した結果、被験者が知覚判断に基づいて刺激を評価した場合と、意味判断に基づいて刺激を評価した場合とで海馬の活動が異なった。このことは被験者に刺激をどのように評価したかによって海馬の活動が変化し、その後の学習(記憶)成績に影響する可能性が示唆された。 以上の結果をもとに、次年度もどのような教授法が海馬の活動を変化させ、刺激の学習を促進させるのかを検討する。
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