小腸特異的遺伝子の発現調節メカニズムとそれら遺伝子発現へのエピジェネティック制御機構の関連を調べることを目的として研究を進めた。本年度は、ニュージャージー医科歯科大学(UMDNJ)へ博士研究員として派遣され、フルクトース摂取により発現が増大するフルクトース輸送体(GLUT5)の発現調節にエピジェネティック調節機構が関与しているかについて解析を行った。近年、欧米ではフルクトースの摂取量が増大しており、その摂取に伴う人体への影響が注視されている。実際に、高フルクトース摂取により肝臓では脂質代謝異常が起こり、メタボリック症候群・肥満に罹患する可能性が示唆されている。派遣先では、発達過程(授乳期から離乳期)の小腸に焦点を当てており、発達過程のフルクトース摂取に伴うGLUT5の発現増大機構について、クロマチン免疫沈降法を用いた解析を行った。GLUT5遺伝子の発現レベルは、授乳期では低値であるのに対し、離乳期にはその発現レベルが増大する傾向を示した。一方、フルクトース溶液を還流した離乳期の小腸ではGLUT5遺伝子発現がグルコース還流群と比較して有意に増大した。このとき、RNAポリメラーゼIIのGLUT5プロモーター領域への結合レベルは、フルクトース還流群で有意に増大した。また、GLUT5プロモーター領域のヒストンH3のアセチル化レベルは、加齢に伴い有意に増大する一方で、離乳期のフルクトース還流群ではグルコース還流群と比較してGLUT5プロモーター領域の-1000~-1600bp間で有意なアセチル化レベルの増大が観察された。本研究より、GLUT5プロモーター上のヒストンH3のアセチル化レベルは、授乳期から離乳期にかけて増大すると共に、摂取したフルクトースによりさらにアセチル化の誘導が促進されることが示唆され、栄養素のシグナルが小腸上皮細胞におけるエピジェネティック制御機構に影響を与える可能性が考えられた。
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