申請者はこれまで、アラビア半島北東部のオマーン・スルターン国に在住するアフリカ系オマーン人を対象に社会人類学的調査・研究を進めてきた。彼らはオマーン帝国の拡大に伴い、1830年代以降東アフリカ各地に移住し、脱植民地化の過程の中で1970年以降本国に帰還した人びとである。本年度は日本学術振興会科学研究費補助金(研究成果公開促進費)の助成を得て、アフリカ系オマーン人のエスニック・アイデンティティに関する単著を出版した。年次前半期は、現在関わっている複数の共同研究の報告書やエッセイの執筆をこなしながら、おもに2006年に提出した彼らのアイデンティティ形成に関する博士論文の改稿作業にとりくんだ。 また年次後半期には単著の校正作業を済ませたのち、2月22日から3月13日までの20日間、オマーンの首都マスカットにて現地調査を実施した。スルターン・カーブース大学図書館や学内に新設されたオマーン研究所で資料収集する傍ら、同大学において関連する主題を研究するアル=マフルーキー教授らと情報交換をおこなった。それと並行し、教育省にて今後分析予定の教科書や指導要綱を収集し、オマーンの帝国主義に対する歴史認識に関わるインタビュー調査もおこなった。
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