研究概要 |
昆虫由来抗菌物質5-S-GADは動物モデル実験系において有意な血管新生抑制作用を示す。しかし5-S-GADは培養ヒト血管内皮細胞(HUVEC)の増殖、遊走、管腔形成に対して作用を示さず、作用点は明らかでない。報告者はこれまでに5-S-GADが酸解離定数(pH8.6)より低い生理的なpH7.4で持続的なラジカル形成が起こることを見いだしている(Akiyama,J Biochem,2007)。そこで5-S-GAD部分構造体であるβアラニルドーパ(β-AD)のラジカル形成に関して検討した。β-ADの酸解離定数はpH8.7で、それよりも低いpH8.0で強いラジカル形成が起こることを見いだした。ラジカル強度は5-S-GAD三分の一であったが、持続時間は180分と5-S-GADと匹敵することが分かった。ラジカル形成の後引き続き起こる過酸化水素の産生速度を比べると、5-S-GADは24時間後にプラトーに達するが、β-ADは5-S-GADよりもゆっくりと過酸化水素を産生し、48時間後にプラトーに達することが分かった。この結果より、持続的なラジカル形成をするという5-S-GADの化学的特性はβ-AD構造に依存する可能性が示された。一方、5-S-GADの脂溶性を高めbioavailabilityを上げる目的で、N-アセチル化5-S-GADを合成した。この誘導体のラジカルスカベンジャー活性は5-S-GADとほぼ匹敵し、ラジカル形成にも違いは見られなかった。そこで、この誘導体の鶏胚漿尿膜における血管新生に対する作用を検討したところ、5-S-GADと同程度の抑制活性が見いだされた。しかし、この誘導体はヒドロコルチゾンによる鶏胚白内障に対して抑制しなかった。この結果は5-S-GADをアセチル化すると白内障発症抑制作用を失うことを示しており、N-アセチル化したβ-アラニル側鎖のアミノ基が活性に寄与している可能性が示された。
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