研究概要 |
本研究の目的は,共感的対話(対話者の共感性や受容性によって,対話者が自律的に新しい視点を獲得するなどといった変化を成し遂げられる対話)における,認知的プロセスをモデル化することである.本研究では特に,心理臨床対話を例として検討を進めている. 本年度は,(1)聴き手の瞬目と頷きを指標とした検討,(2)非言語的行動のマルチチャネル対応付けによる臨床対話のダイナミックな構造に関する検討,(3)話し手理解の認知的枠組みに関する検討を主に行った.(1)では,心理臨床対話とその比較対象である日常的な悩み相談の対話を収録し,そこで観察されるカウンセラーの瞬きや頷きを定量的に分析した,結果から,専門家と非専門家の明らかな差異を示す結果を得た.さらに(2)複数の非言語的行動と発話内容を時系列的に対応づけることにより,心理臨床対話のダイナミックな構造について考察した. (3)では,心理臨床の専門家によるクライエント理解,すなわち,どのような情報を選択的に拾うか(重要視するか)を調べることを目的とした検討をおこなった.心理面接ビデオの視聴後の再生課題を用いて,非専門家との比較から,専門家によるクライエントに関する記憶の仕方について検討した.結果,臨床家と非臨床家とは記憶表象が異なる可能性があることが示された.こうした検討の結果は, (1)や(2)のように非言語行動の分析を用いた対話の認知的プロセスの動的変化に関わる検討から得られた結果と統合することによって,本研究の最終目的に向けて有効な知見をもたらすと考えている.今後,この検討をより詳細に行うことで,本研究の最終目的を達成する予定である.
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