本研究で考察の対象としている「してみる」「してみせる」は、従来の研究では「何のために行われるか」を表す「もくろみ動詞」とされており、「ためしに」(「してみる」の場合)「手本に」「みせびらかしに」(「してみせる」の場合)のように、「目的性」の観点からの考察にとどまっている。 平成20年度には、「してみせる」について、コーパスから採集した実例を対象に「してみせる」における語彙的特徴、形態・構文的特徴を明らかにし、それに基づき「してみせる」の意味・用法を明らかにした。具体的にいうと、成(2009a)では、「その動作を目で捉えられるか否か」という「視覚性」の観点から、「してみせる」の形をとる動詞を「可視動詞」(例えば、「笑う」「歩く」)と「非可視動詞」(「驚く」「勝つ」)に分類し、「してみせる」には「可視動詞」特に表情や仕種を表す動詞が多く現れていることを、「してみせる」の語彙的特徴として明らかにした。成(2009b、2009c)では「してみせる」における語彙的特徴の他に、「実現性」の観点から「してみせる」がとっている形が過去形であるか非過去形であるかという形態的特徴を考察し、「指向性」の観点から相手の「に」格に表れる名詞が特定か不特定かという構文的特徴を考察した。そして、これらの特徴に基づき「してみせる」の意味・用法に(1)「動作の提示」((1)a「表情や身振り・手振りの提示」/(1)b「行為の提示」)(2)「動作の具体化」(3)「結果の提示」(4)「話者の心理状態の提示」があることを示した(具体例は下に示す)。このように「視覚性」「実現性」「指向性」という複合的な観点から考察することで従来の研究のように「手本」「みせびらかし」という「目的性」の面で特徴的な部分の記述にとどまらず、「表情や身振り・手振りの提示」「動作の具体化」「結果の提示」を指摘することができ、「してみせる」の意味・用法を全体として捉えることができた。 (具体例:(1)(a「どうかした?」花子が聞くと、太郎は黙って苦笑してみせた。/b先生は「壽」という字を黒板に書いてみせた。)(2)「私、ご飯なんかなくて平気」「へえ、本当?」良子が驚いてみせた。(3)内藤はあっさりと優勝してみせた。(4)「今度は必ず勝ってみせる。」)
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