研究概要 |
2008年岩手・宮城内陸地震後の地殻変動について,GPS観測によって余効変動を検出し,余効すべりおよび粘弾性緩和による非定常的地殻変動を精度よく検出した.地震後1年半経過した時点でも,非定常変動が東北地方の広域で確認された.地震後1ヶ月の余効すべりについては,既にIinuma et al.[2009]で報告されている.しかし,より長期の非定常地殻変動を解釈するため,地震後1年の時系列を説明するような余効すべりについて,McCaffrey[2009]の手法を用いて推定を行った.時系列の時間変化がScholtz[1990]による対数関数で近似できると仮定すると,長期時系列もIinuma et al.[2009]とほぼ同様の結果を得る.ただし,よく用いられるこの対数関数の式は,シグナルの振幅と時定数の間でトレードオフが大きく,パラメータの初期値依存性や任意性が大きいため,それらの仮定については,今後より客観的な推定方法の検討が必要である.また,広域で観測された非定常地殻変動は,粘弾性緩和の影響を示唆する.単純な層構造を仮定した粘弾性緩和は,Pollitz(1997)の手法により推定することができる.予備的な結果として,弾性層の厚さが17-19km,粘弾性層の粘性係数が3-6×10^<18>Pa・sの組み合わせで観測値をよく説明する.このメカニズムを定量的に議論することにより,震源域周辺の地下構造の推定が可能となり,下部地殻,上部マントルといった粘弾性層がひずみ集中帯の地震発生層にどのような影響を与えているかを知ることが可能となる.粘弾性構造については,主に地震波トモグラフィーからの結果しか得られておらず,本研究の結果を照らし合わせることにより,今後より現実的な解釈が進むと期待できる.
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