本研究員の今年度の研究計画の骨子は、「(1)文献サーベイによる研究の学問的背景の整備」、「(2)企業調査・データ収集とそれらに基づく論文作成」、「(3)東京大学ものづくり経営研究センター(MMRC)における国際経営関係の研究会・プロジェクトの立ち上げ」であった。 (1)に関しては、国際経営論を中心に文献サーベイを行った。例えば、海外子会社の進化を扱った論文であるBirkinshaw and Hood(1998)から、海外子会社の能力構築に有効なマネジメントとしての「内部競争的マネジメント」の着想を得た。この文献に関しては解説を書き、それが「赤門マネジメントレビュー」の「経営学輪講」に掲載された。古典的文献を含めた様々な文献サーベイから、海外子会社の動態的能力構築の成功要因を、本国を中心とした他の拠点との関係(分業構造、人材配置、コミュニケーション)からみる視座が定まった。 (2)に関しては、海外調査を基にした論文をMMRCディスカッションペーパー、および国際ビジネス研究に投稿し、研究発表を国際ビジネス研究学会で行った。この一連の研究で、「国際分業構造が海外子会社の能力構築を阻害する可能性」が示唆され、各国の立地優位だけでなく、より動態的な視点から分業体制を考慮すべきことが明らかになった。また、マクロデータを用いた研究として、東洋経済「海外進出企業総覧」のデータから、「海外子会社における日本人駐在者数の決定要因」の分析をSPSSで行っている。さらに、企業調査として「内部競争的マネジメント」を実践している昭和電工ヘヒアリング調査を行った。この調査を元に、駒澤大学経営学部専任講師である中川功一氏を共同研究者として、来年度に論文を投稿する。 (3)に関しては、MMRCにおいて多国籍企業研究会を立ち上げた。また、当研究会内では「海外量産展開プロジェクト」に参加し、「日系企業の海外量産拠点の『量産』の成否を決定する要因は何か?」を明らかにすることを目標に活動を行っている。
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