研究概要 |
本研究は、平成9年以来3年間にわたってハンガリーの大平原に広がるタニャ(散村)の現状と過去を調査研究するものであった。調査は、ハンガリーのケチケメート周辺(セントキラーイ地区)、セゲド周辺(ボルダーニ地区)、ベーケーシュ県(コンドロシュ地区)の三つの地域を対象として行われ、それぞれ20件のタニャを対象とする聞き取り調査と、それぞれの地区のタニャの歴史的変遷に関する研究を行った。そして、可能なケースにおいては、一つ二つのタニャの個人史を描くことも試みた。セントキラーイ地区とボルダーニ地区は砂地で果実・野菜の生産が行われるのに対して、コンドロシュ地区は黒土で穀物生産と畜産が中心であるという違いがあるが、それにもかかわらず、大きく言って、共通する諸問題を抱えていることが判明した。それは、かつての生産協同組合の解体のあと成立した小農業者にとって、協同組合に代わる農業技術・情報提供機関や市場化ネットワークが形成されていないと言う問題、また旧社会主義市場の崩壊による農産物国際市場の代替が見出されていないと言う問題、そして、政府の一貫した農業振興策が実施されていないという問題である。そのため、各地区においてそれぞれ20件ずつのケーススタディーをしたなかで、拡大再生産の可能性を持つタニャは4,5件であり、あとの10件ほどは単純再生産レベルにとどまるのがやっとであり、残りの4,5件は間もなく消滅せざるを得ない状況にあることが判明した。そして、タニャの農民は、その歴史の中でもっとも恵まれていた時代は、1960〜70年代の社会主義時代であると意識していることも判明した。
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