研究課題
メコン流域における文明化の過程とその実相を研究するため、本年度の調査対象地はメコン中流域とした。昨年度の調査地がメコン河口域であったので、それとの比較も兼ねている。タイ東北地方のメコンの支流・ムン川の流域及びメコン本流の中流域に焦点をあてた。この地域は前5世紀ころから居住と生産活動が活発化するが、河川の分岐点や河川中の中州などから大形銅鼓の出土があることで注目される。今回もムン川上流のパクトンチャイ、ムン川とチー川の合流点に近いところ、メコン河とムン川の合流点のコンチエム、メコン河中の中州であるドンターン、メコン河畔のムクダハンから内陸に入ってカムチャイーなど計 5 遺跡から出土したヘーガー1式銅鼓の調査を行った。カムチャイーの資料は新発見の銅鼓である。コンチエム鼓を除くと他の4例はすべて大形銅鼓である。メコン流域から出土する銅鼓のほとんどが、これら大形銅鼓であるという地域性が明らかとなった。またパクトンチャイ、ドンターンの銅鼓は通例の銅鼓と同じ鋳造法によっているが、カムチャイー鼓は合范線が装飾となり、本来のものからは変化している。また文様がきわめて特殊で、東南アジアではまれな例である。ヘーが-1式銅鼓の年代よりはかなり下る可能性もでてきた。今回調査したメコン中流域の銅鼓は、ベトナム北部のドンソン系列の銅鼓があると同時に、中国南部、広西地方との関係を想定させるものもあることがわかる。銅鼓にみられる特徴から、メコン河を重要な交通運輸手段とする東南アジア内部および中国南部との広域の交渉があったことが推定できる。このような大型銅鼓の出土地は、いずれも河川交通の要衝に位置しており、そこに政治権力の誕生と、後世の都市への萌芽を読みとることができる。
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