研究課題/領域番号 |
09041025
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
東洋史
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
桑原 季雄 鹿児島大学, 法文学部, 助教授 (00225319)
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研究分担者 |
黒田 景子 鹿児島大学, 法文学部, 助教授 (20253916)
土佐 桂子 神戸大学, 国際文化学部, 助教授 (90283853)
青山 亨 鹿児島大学, 多島圏研究センター, 助教授 (90274810)
新田 栄治 鹿児島大学, 法文学部, 教授 (00117532)
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研究期間 (年度) |
1997 – 1999
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キーワード | 海域世界 / 観光政策 / 共生 / 国民文化 / 世界観 / 多民族 / 銅鼓 / 伝統の創造 |
研究概要 |
本研究は、東南アジア地域において急激な「近代化」が進行する課程で、「伝統」の現代的な価値が肯定的に再評価され再生しつつあるという「伝統」像の変化に注目し、その解明を意図した。 土佐は、ミャンマーにおいて、移住に際して働く経済、民族的要因や、高僧の教えにみる「民俗」への意識について考察し、中心地区への移住には土地や財力といった経済的要因が、周縁地区への移住には特定の民族の結束力や言語への依存度が強くなること、また高僧の説法等では民族的差異は強調されないが、言語や服装において強調されていることを指摘する。新田は、マレーシア半島東岸、西岸、東マレーシアの3地域で出土したヘーガー1式銅鼓について、東南アジアにおける銅鼓の中心地ベトナム北部の銅鼓が、南部沿岸づたいにマレー半島西海岸部へ伝播したこと、またメコン流域の銅鼓同様、マレーシアの銅鼓も、水上交通の拠点となる地の首長によって威信財として受容されたものであったことを指摘する。桑原は、国家による国民意識の創出のための観光イメージの管理、操作という観点からマレーシアの事例を中心に考察し、多文化主義が観光のセールスポイントとして売り出され、それが国民の意識にも跳ね返ってくること、またマレー文化の最大の特色であるイスラーム的要素が中立化され観光から注意深く排除されていることを指摘する。黒田は、博物館が歴史認識の問題と結びつくことを指摘し、1990年代のシンガポールの博物館の事例を取りあげ、シンガポールが多民族社会のもつ多様性と「ただひとつの国」という国民意識をもたせようとする拡散と集中の双方のバランスの中にたつことを選択していることを指摘する。青山は、歴史物語などの古典的物語作品におけるイスラーム受容をめぐるエピソードを取りあげ、マレー世界とジャワ世界の言説を比較することによって、この二つの世界においてイスラーム受容の段階から性格を異にするイスラーム的伝統の創生があったこを指摘する。 このように、土佐は、移住や高僧の存在によって「民族」の差異がどのように強調されるかという観点から「伝統」の変遷の問題にせまり、黒田と桑原は「博物館」や「観光」と国家との結びつきの中に、国家による「伝統」イメージの管理、「伝統」の創生の側面を問題にし、新田は「銅鼓」の比較を通してマレーシアの基層文化がメコン流域の伝統文化のいわば「再生」であることを指摘する。また青山は、「イスラーム受容」という観点からマレーとジャワにおける「伝統」の創生における性格の違いを指摘する。さらに、土佐、桑原、黒田が、移住や博物館、観光といった同時代の国家的状況における題材を通して「伝統」の問題にアプローチするのに対し、新田と青山は銅鼓や古典的物語作品といった古い時代の題材を通して伝統文化の伝播や受容、創生の問題に迫っている。
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