研究課題/領域番号 |
09041028
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
斎藤 晨二 名古屋市立大学, 人文社会学部, 教授 (70094373)
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研究分担者 |
高倉 浩樹 東京都立大学, 人文学部, 助手 (00305400)
池田 透 北海道大学, 文学部, 助手 (50202891)
吉田 睦 千葉大学, 文学部, 助教授 (00312926)
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キーワード | 寒冷地適応 / 伝統文化 / サハ(ヤクート) / ネネツ / 馬飼育文化 / トナカイ飼育・狩猟・漁労 / 環境破壊 / 市場原理 |
研究概要 |
サハ(ヤク-ト)の馬飼育文化は現代における「生き残り」の問題としてのほか、牧畜文化の寒冷地適応としての歴史的な生き残りの問題でもある。今回の調査は、夏至の祭の実態調査を中心に緑画、英雄叙事詩・即興歌の録音を中心に実施し、若い世代も伝統的文化の生き残りを目指していることが分かった。馬牧畜は凍土の融解によって生ずるアラースの比較的小規模の草原の利用である。そこでは、1メイル・ユニットとも称すべき小サイズの群れで放牧が行われるため、モンゴル草原などの牧畜体系が豊富な肉供給をともなう牧畜体系に変容したと推測される。トナカイ飼育と馬飼育において、共に群が日帰り放牧の対象とはなっていない。トナカイ・馬の群はそれぞれ騎乗可能な調教個体から成る使役群と非調教で主にその肉と毛皮の利用を目的とする肉群に分かれている。その点、牧畜と家畜動物による狩猟が同等な位置にあるといえる。 トナカイ飼育は、いずれにおいても存続の危機に瀕し、その諸問題がソ連期の民族政策や環境破壊、当面のロシア経済の混乱等に根ざしており、「生き残り」と固有の伝統文化の維持の間に多難な課題がある。ただ、ギダン半島のネネツ人に伝統的な姿のトナカイ遊牧・漁労・狩猟の生業活動文化が色濃く維持されていることは注目される。 トナカイ飼育・狩猟・漁労を組み合わせた生業体系が崩れ、食用野生獣に対する狩猟比重が高まっている。また、ソ連期に現金収入の道として確立された野生獣の肉や毛皮狩猟が市場原理の導入によって壊滅的な打撃を受けている。近年の狩猟・漁労に対する自然保護の視点からの規制も進みつつあり、これら生業の将来には多大な問題がある。
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