研究概要 |
アンデス諸国特にペルーにおいては、かつての階層化された民族の差異が弱体化する一方で、地域差が顕著になるという現象が認められる。それを検証するためには地域差の実態を明らかにする必要がある。本調査においてはそれをペルーの中部(アヤクチョ)地域と南部(クスコ)地域を対象として、社会、宗教、芸能、芸術表現の諸側面にわたって比較しうる資料の収集に努めた。詳細ね分析は今後の課題であるが、地域差を生み出す要因はきわめて複雑で、錯綜しているようにみえるが、基本は都市/農村関係の特性に規定されている。ペルーにおける近代化の過程は都市部から農村部へと波及するが、同時に1960年代末以来の農村部から都市への膨大な人口移動に伴って、「氾濫」とまでよばれることのあるアンデス化が生じている。すなわち山岳農村地帯の社会・文化伝統が都市生活の重要な部分を形成するにいたっている。つまり、農民出身者が単に都市住民に変わったというだけでなく、社会や文化のさまざまな局面でアンデス高地農村地帯の制度,習慣、観念が普及・一般化し、その一部は広く国民文化として受容されている。本報告書の第1部で扱われたアヤクチョ地方の民族舞踏ハサミ踊りや民衆芸術表現としての箱型祭壇レタブロが広くペルーの都市部で人気を得ていることは、その良い例である。この報告書は1997,1998,1999の3年度にわたってペルーにおいて実施した調査に基づいている。第1部は1998年に国立民族学博物館調査報告9号として公刊した『アヤクチョ社会の歴史、宗教、儀礼』.を収めたものであり、第2部は2000年に刊行を予定する南部(クスコ)に関する調査報告に掲載する論文草稿をまとめたものである。ペルーにおける地域性の形成過程については、北部も含めて今後さらに比較検討を行う。
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