研究課題
平成9年度では、陜西省西安市近郊に所在する陵墓の内、前漢陵11基と唐陵6基を、河南省永城市に所在する前漢梁国王墓1基と北京市房山に所在する金国陵墓1基を踏査した。今年度は昨年度の継続調査として、10月に延べ1ヶ月にわたって唐陵12基を踏査した。さらに踏査記録の遺漏・不備を補うために、平成11年3月に唐陵9基の補足調査を行った。今回の調査で唐十八陵の完全踏査を果たしたが、これにより唐陵の構造の全容が判明した。則ち、四門、門闕、南神道、北神道、石刻列、献殿等の施設は初代献陵より備わっており、この基本構成は末代靖陵まで変わることなく受け継がれる。ただし城壁で囲繞されるところの平面プランは各陵ごとに全く違ったものであることが判明した。今回の調査では、詳細な測量調査は実施できなかったが、1/25000の地形図に記入することによって資料化に成功しており、従来より未知見の部分に初めて資料を提示することができた。また、石刻列については、考古学的手法を用いて比較することで、明確にその変遷を辿ることができた。石刻列の成立を問題にした場合、3代乾陵が画期となることは自明である。初代献陵は南朝の影響の強い華表を有し、以降の唐陵にはみられない虎、犀などの石刻で構成されている。2代昭陵は、石刻の内容が不明であるものの、陵体へのアプローチが北門を通じる点で異例である。確かに山容が他を凌駕・圧倒する点でここに墓所を選定した太宗の意図は読み取れるが、そのために南門からのアプローチが考慮されておらず、山陵としては未完成である。ただし乾陵にしても文人・武官の区別がなく、華表が異形であることから正確には5代泰陵を待って石刻列の成立とみなすべきであろう。