1.米国の1960年以降の対外赤字の原因が日本に主に起因すると当初考えられ、米国政府は以下の政策を講じた。 (1)国際収支の調整、具体的には1971年にIMF-GATT体制の崩壊離脱や1985年のプラザ合意による為替調整、 (2)貿易相手国、とくに日本に対し、通商障壁の撤廃と自由化の推進、 (3)地域経済統合化。NAFTAを形成し協定国相互での市場開放とともに、域外国からの輸入を関税差別した。 2.一方、日本では1950年代から政府が機械・電子工業を重点とする産業政策を導入した。その後石油危機、円高、輸出自主規制を経た後、日本の自動車メーカーはNAFTA形成により大きな影響が出ると予想して先駆けて直接投資の形で1980年代末までに北米への進出をほぼ果たした。この結果、日本式経営が一方で北米の社会や企業の経営スタイルに異文化接触に基づくパラダイムシフトを生じさせ、新たな学習効果をもたらすとともに、両者の経済・社会的な相違を浮き立たせた。 3.同時に、自動車産業は以下の新たな産業課題に直面している。(1)排気ガス等への環境保護対策、(2)リサイクルによる資源の活用、(3)知能技術運転システム(ITS)開発、(4)燃料電池車開発など。 4.これらの新たな産業課題はどれも研究開発面で人的・技術的、資金的に莫大な経営資源が必要であり、個々の企業で可能なことは極めて限られている。このため国境を越えて戦略的な提携と連携への動きが見られる。 5.以上、本研究はNAFTAへ進出した日系自動車メーカーの新たな経済・社会環境についての日本と北米の研究者の共同実態調査研究である。投資国・受け入れ国双方の視点からの分析を行うことができ、この分野で先行する調査・研究を補う点が少なからずあると思われる。今後はアジアやヨーロッパにおける調査も必要である。
|