ボノボ(Pan paniscus)の分布と生態的特性

1999 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09041160
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 加納 隆至 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (40045050)
• 研究分担者: 伊谷 原一 林原自然科学博物館準備室, 類人猿研究センター, 研究員 ; 古市 剛史 明治学院大学, 一般教育部, 助教授 (20212194) ; 金森 正臣 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (70015585) ; 五百部 裕 京都大学, 大学院・理学研究科, 助手 (20252413) ; 小川 秀司 中京大学, 教養部, 助教授 (80293976)
• キーワード: チンパンジー / ボノボ / 分布域 / 生息環境 / 種内変異 / 生息地利用 / 集団構成 / 乾燥疎開林

研究概要

平成11年度では、タンザニアのリランシンバ丘陵地帯、ウガラ丘陵地帯、ルクワ地区と、ウガンダのカリンズ森林でチンパンジーの生態に関する現地調査を実施した。
タンザニア:(1)リランシンバ丘陵地帯:この小さな孤立分布域内に、コンゴ民主共和国からの難民の7万人規模のキャンプが設置された。彼らの生計活動(狩猟、漁労、採集)の影響により、以前はマラガラシ河岸から内陸部5kmまでの地域を広く利用していたチンパンジーが、人間が近づくことが困難な急峻な河岸段丘斜面部に追いつめられていることが判明した。(2)ウガラ丘陵地帯:このアフリカ有数の乾燥地帯に生息するチンパンジーの生態解明と平行してサバンナヒヒの生態研究に着手した。チンパンジーの濃密地滞ングウェに生息するヒヒの5集団の構成・行動域・遊動および食生態の一部が解明された。(3)ルクワ地区:アフリカにおけるチンパンジー分布の南限を塗りかえたこの地域のチンパンジーの生態は未解明であるが、今回の調査により、チンパンジーはルワジ川とルンダ川に挟まれた湖岸丘陵地帯に、最大で25頭生息していると推定された。
ウガンダ:カリンズ森林において、チンパンジーをはじめ数種のサル類の人付けが進んでいる。また食性と果実生産量の季節変動が継続記録されている。一次林では果実の集中分布が進むと、ネストグループのサイズが大きくなるが、二次林ではその傾向はなく、二次林がフォールバック食物の提供の場としての性格を持っていることが定量的に示された。また、チンパンジーのパーティーのサイズには、食物量よりも発情メスの数がより大きな影響を与えることが判明した。その他、各植生タイプにおける動物密度の季節変化の調査により、チンパンジーが他の動物より多様な食性を使い分けていることが示唆された。チンパンジー狩猟行動の被捕食者側からの研究も進められている。

研究成果

• [文献書誌] Kano T.and Nishida T.: "Bilia as an authentic vernacular name for Pan paniscus"Pan Africa News. 6巻1号. 1-3 (1999)
• [文献書誌] Nishida T.,Kano T.,Goodall J.,NcGrew WC. and Nakamura M.: "Ethogram and ethnography of Mahale chimpanzees"Anthropological Science. 107巻2号. 141-188 (1999)
• [文献書誌] 加納隆至,小川秀司,安里龍,金森正臣: "西武タンザニア・マラガラシ北岸におけるチンパンジーの分布"霊長類研究. 15巻. 153-162 (1999)
• [文献書誌] 小川秀司,伊谷原一,金森正臣: "タンザニアのウガラの疎開林地帯におけるチンパンジーの生息地"霊長類研究. 15巻. 135-146 (1999)
• [文献書誌] 小川秀司,加納隆至,金森正臣,Edeus MASSAWE: "タンザニアのルクワ地区南西部で新しく発見されたチンパンジーの生息地"霊長類研究. 15巻. 147-151 (1999)
• [文献書誌] 小川秀司 松村秀一 大浦宏邦 中丸麻由子 岡本暁子 藪田慎司: "社会行動とゲーム理論"霊長類研究. 14巻. 209-221 (1998)
• [文献書誌] 伊谷原一、森村成樹、不破紅樹、: "類人猿研究センターの新設"霊長類研究. 15巻. 277-280 (1999)
• [文献書誌] 古市剛史、橋本千絵、伊谷原一、五百部裕、田代靖子、加納隆至: "コンゴ民主共和国ワンバ地区におけるボノボ研究:ルオー保護区の現状と展望"霊長類研究. 15巻. 115-127 (1999)
• [文献書誌] 橋本千絵、古市剛史、田代靖子: "森林タイプの多様性とチンパンジーの生態-ウガンダ・カリンズ森林からの報告-"霊長類研究. 15巻. 129-134 (1999)
• [文献書誌] Sugiura H.,Saito,C.,Sato,S.,Agetsuma,N.,Takahashi,H.,Tanaka,T.,Furuichi,T.,and Takahata,Y.: "Variation in Inter-group Encounters in Two Populations of Japanese Macaques"International Journal of Primatology. 15巻. 印刷中 (1999)
• [文献書誌] 橋本千絵: "カリンズ森林のチンパンジーの手足の異常について"霊長類研究. 15巻. 187-192 (1999)
• [文献書誌] 田代靖子、古市剛史、橋本千絵: "糞分析によるチンパンジーの採食生態の解明-カリンズ森林からの報告-"霊長類研究. 15巻. 179-185 (1999)
• [文献書誌] Hashimoto C.: "Snare injuries of chimpanzees in the Kalinzeu Forest, Uganda"Pan Africa News. 6巻. 20-22 (1999)
• [文献書誌] Hashimoto C.,Furuichi T.and Tashiro Y.: "Ant dipping and meat eating by wild chimpanzees in the Kalinzu Forest, Uganda"Primates. 41巻. 103-108 (2000)
• [文献書誌] 橋本千絵、古市剛史: "動けない個体に対する同群の個体の攻撃と保護-ヤクシマザルの事例"霊長類研究. 16巻(印刷中). (2000)
• [文献書誌] Hashimoto C.,Furuichi T.,Tashiro Y.and Kimura D.: "Vegetation of the Kalinzu Forest, Uganda: ordination of forest types using principal componenet analysis"African Study Mongraphs. (印刷中). (2000)
• [文献書誌] 五百部裕、上原重男: "タンザニア、マハレの哺乳類個体群に与えるチンパンジー狩猟の影響(予報)"霊長類研究. 15巻. 163-169 (1999)
• [文献書誌] Takahata Y.,Ihobe H.& Idani G.: "Do bonobos copulate more frequently and promiscuously than chimpanzees?"Human Evolution. 14巻. 159-167 (1999)
• [文献書誌] 小川秀司: "たちまわるサルーチベットモンキーの社会的知能-"京都大学学術出版会. 275 (1999)
• [文献書誌] 古市剛史: "性の進化、ヒトの進化-類人猿ボノボの観察から"朝日新聞社. 258 (1999)
• [文献書誌] 古市剛史: "雄と雌の生活史.高畑由紀夫,山極寿一編,『ニホンザルの自然社会: エコミュージアムとしての屋久島』"228 (2000)