研究課題
基盤研究(A)
われわれはこの研究を、ボノボ(Pan paniscus)の分布と生態的特性を、コモンチンパンジー(Pan troglodytes)との比較研究を通じて明らかにする目的で立案した。不幸にしてコンゴ民主共和国の政情不安のためボノボの現地調査を行うことが出来なかったが、1973年以来蓄積された生態と行動に関する観察資料をもとに、個体群動態と保全の問題、生息地利用と遊動行動、性行動のとりまとめを行った。コモンチンパンジーの研究は、ウガンダのカリンズ森林、タンザニアのウガラ、リランシンパ、ルクワで行った。カリンズでは人付けを通じてチンパンジーの接近観察を行い、チンパンジーの遊動行動と生息地利用のパタンと生態的条件・社会的条件との関係を考究した。また新しく観察された狩猟行動・道具使用行動をチンパンジーの行動文化の観点から検討した。他種霊長類たとえば先行研究のほとんどないロエストモンキーの生態学的研究も進めた。バイオマスの資料も収集し、カリンズにおける森林性哺乳類コミュニティのなかでのチンパンジーの位置づけと役割に関する研究も進めている。タンザニアのウガラ、リランシンバは、チンパンジー分布の辺縁部でありもっとも乾燥した地域に属する。巣、食痕、糞などの間接証拠により分布を明らかにし、各地の密度推定を下したほか、チンパンジーがサバンナと森林の双方に依存していることを明らかにした。ルクワはアフリカ全土でのチンパンジーの南限に当たる。巣の密度から見てチンパンジーは極端に少なく、造巣場所を川辺林だけに限定する特異な生態を持っている。長期間孤立してきたと思われ、亜種レベルの分化を起こしている可能性も考えられる。この研究によって多くの知見が得られたが、ボノボとチンパンジーの生態特性に関して総合的に判断を下すまでには至らなかったのが、反省材料として残される。
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